Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-04-21 Sun

田村隆一「若い荒地」 (講談社文芸文庫) 2007年2月10日刊


 この本は、間違いなく、日本の戦後詩をリードする役割を担った同人誌「荒地」のメンバーであった鮎川信夫、中桐雅夫、三好豊一郎、北村太郎、そして戦後をむかえられなかった牧野虚太郎、森川義信らの戦前から戦中にかけての活動を、田村隆一が、当時出していた「LUNA」、「LEBAL」、「詩集」といった雑誌を綿密に辿りながらまとめあげたものです。
 最初は伊達得夫の「ユリイカ」に連載し、その後「現代詩手帖」に引き継がれました。この連載は田村が37歳のときに始められ、それから44歳まで7年かけて完成しています。

2013-04-21 Sun 17:16 | 古本

2013-04-18 Thu

河原晉也遺稿「幽霊船長」 (文藝春秋) 1987年11月15日刊


 著者は1987年8月に44歳で急死されています。22歳のときに、鮎川信夫の知遇を得て、1986年10月に鮎川が亡くなるまで師事していた人だったようです。
 この本は、遺稿集なのですが、タイトルの幽霊船長とは、鮎川のことです。なぜこのような名前をつけたのかというと、著者は、鮎川の死後初めて家を訪れます。生前の鮎川は、その私生活については極端な秘密主義者で、親しい人にも住所はおろか、電話番号すら教えていなかったようです。その鮎川の家を訪れた著者は、腰を抜かすほど驚くことになります。なぜそうなったかは、実際に読まれたほうがよいでしょう。鮎川について、一定のイメージを持っている人ほど楽しめる内容となっています。
 このほかにも、エッセイや小説も収められていますが、どれも実にいいです。向井敏ももし生きていれば、「青べか物語」と並ぶ好著が生まれたかもしれないと書いています。
 実に残念です。

2013-04-18 Thu 22:39 | 古本

2013-04-05 Fri

大岡玲編「文芸誌『海』精選対談集」(中公文庫) 2006年10月25日刊


1969年に刊行され、1984年に休刊した文芸雑誌「海」に収録された対談から、大岡玲が厳選した10篇を収めたものです。
 内容を大きく分けると、昔話系が5編、批評系が4篇、訳が分からん系が1篇といったところです。
 昔話系では、里見��が、志賀直哉との対談の中で、泉鏡花が一番はじめにもらった原稿料が、5合入りの醤油ビンだったとか、お正月には、作家は出版社に挨拶に行ったとか言っています。また埴谷雄高が、野間宏との対談の中で、武田泰淳は、行くと必ず一升びんを机の上に置いて書いていて、「酒でも飲まなかったら、恥ずかしくって書けるかい。」と言っていたことを話したあと、「この恥ずかしいということは決定的だ。生きていること自体が恥ずかしい。それがぼくたちにとって当たり前の出発点ですね。」と言っています。
 批評系では、川崎長太郎が、水上勉との対談の中で、徳田秋声の生活に追われて文学のことなんかおちおち考えている余裕がなかったという発言を紹介したあとで、もし生活の心配がなかったとしたら、果たして秋声文学が生まれたかどうか非常に疑問であると言っています。このほかにも、吉田健一について論じた、河上徹太郎と丸谷才一の対談、谷崎や三島について論じた、円地文子と中上健次の対談が収められています。
 そして、訳が分からん系というのは、土方巽と唐十郎の対談で、はたして話がかみ合っているのかどうかも分かりません。

2013-04-05 Fri 22:43 | 古本

2013-03-26 Tue

山田稔 「特別な一日」 (朝日新聞社) 1986年9月30日刊


 この本は、平凡社ライブラリーからも出ているようですが、こちらが元本ということになります。カバーの挿画は松本俊介の「街の人々」(1940年作)です。
 著者は、夜中にふと眼を覚まし、布団のなかで、幼いころから家にあった、なんでもない本を通じ幼い日の自分や母親を思い出します。
 最後の文章がこれです。
  「さきほどから、自分の顔が暗がりの中でずっと笑いをうかべていたような気がしてきた。さあ、今夜はもうこれでおしまい。何も考えず、もういちど眠りに入ること。−寝返りを打とうと枕の上で頭をうごかす。すると目尻からひとすじ、ただ水のような涙がつうとこめかみを流れ落ちるのがわかった。朝はまだ遠かった。」

2013-03-26 Tue 21:35 | 古本

2013-03-25 Mon

富士正晴 「軽みの死者」 (編集工房ノア) 1985年3月30日刊


 昭和23年の秋ころに、富士は、吉川幸次郎から、「わしは儒者やから死後の世界というものはない筈なのだ。ところが、わしが死んで見ると、その死後の世界があったということ。」を小説に書いてほしいと頼まれます。そして書かれたのが、この本の冒頭に収められている「游魂」という小説です。富士は、吉川をモデルとした死霊にこんなことを言わせています。
 「生きた人間の一生はなんと短いのだろう。だが、それは何と豊富なのだろう。輝くように眩しく思われるその短い時間を思う時、死霊の持つ無限時間というものは遂に生き身の人間の有限時間以上に有限のものとさえ思われてくるのだった。」
 また、別の作品では、こんなことを書いています。
 「私は大分前から死ぬのに決まっている病人の見舞には出かけない。いささか残酷といわれそうだが、平和でもこの世は戦場であるという気がしていると、行く気にはなれない。今度いつ逢えるかなあではなく、又、逢えるかなあとしかいえぬ戦時のこと戦時の境遇を思い出すと、今の若いテレビ育ちの人間のように甘い気分にはなれない気がして。」
 

2013-03-25 Mon 21:31 | 古本

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