Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-06-19 Tue

金田理恵 「ぜんまい屋の作文」 (龜鳴屋) 2012年4月17日刊


 著者は、この本によれば、装幀家である菊地信義氏の事務所の丁稚となり、その後独立。「森茉莉全集」、「尾崎翠全集」など装丁多数とあります。
 この本は、「ちくま」とか「銀花」などに掲載された文章をまとめたものです。
 この人は、自宅に小型の活版印刷機を持っていて、少しずつ活字を購入し、月1枚ずつ葉書を刷って、友人・知人に送っていたとあります。このあたり普通じぁないですね。ですが、文章がとてもよくて、もっと読んでみたいと思いました。例えば、
 「気持ちをかたち作る手掛かりは、けっこう具体的なところにあるものだ。人が心を寄せてきたもの、気持ちを積み上げてきたものが何のためらいもなく削られていって、ある日気がつくと、町は見知らぬ町になっている―。あんまりさびしいじぁないか。と思う。」

2012-06-19 Tue 21:00 | 新刊本

2012-06-19 Tue

坪内祐三「文藝綺譚」 (扶桑社) 2012年4月20日刊


 きだんと読みます。かの荷風の名作もきだんと読むんですね。間違えてました。
 文藝とありますが、文学者の話だけではなく、モダニズムとポストモダニズムの対立の問題や、ロストジェネレーションについての言及もあります。日本においては、消費のための消費が日常化してゆき、消費そのものにはあまり関心の持てない世代というのがいて、それは、かつての失われた世代よりさらに不幸であるとの記述があります。
 文学については岡田睦と川崎彰彦を取り上げ、「共にいわゆる文壇とは無関係に、自由に作家活動を行っている、アナーキストである。どうやって生活が成り立っているのか分からない(だがそれがうらやましくも美しい)。」と書いています。

2012-06-19 Tue 21:00 | 新刊本

2012-06-13 Wed

坪内祐三 「東京タワーならこう言うぜ」(幻戯書房) 2012年5月8日刊


当初この本の書名は、「革命的1958年生まれ宣言」にしようと考えていたらしいのですが、東京タワーの完成と同じ年に生まれたことにこだわり、この書名になったようです。
内容は50歳を超えたところで見えてくるものについての雑文集というところでしょうか。
 次々と雑誌が廃刊となっている今日ですが、ネットで得られる情報は単体にすぎず、歴史を失ってしまうことに対する危機感から、逆に今こそ雑誌の時代が始まる、かつての本屋は、いまのように売れ行きだけを最優先するものではなく、一つの豊かな文化基地であり、単に買い物をするだけの場所ではなかった、平成という元号になじむことができない、平成に入ってからのスピードは特別だ、いまその巨大な樹は朽ち果てようとしているのに殆ど誰もそのことに危機意識を持っていない等、反体制的言辞に満ちています。ここが革命的という所以でしょうか。本人は、保守と称していますが。

2012-06-13 Wed 17:15 | 新刊本

2012-06-01 Fri

池内紀「恩地孝四郎一つの伝記」(幻戯書房) 2012年5月11日刊


 恩地孝四郎は、詩人であり、版画家であり、萩原朔太郎の「月に吠える」を装幀した、装幀家としても知られています。この本は、一つの伝記となっていますが、著者は、作品と時代を通じて、十分にひとりの人間の生涯はつづれるとの考えから、彼の私生活の記述はほとんどありません。 
 大正から昭和にかけてのモダニズムに興味のある人は、ぜひお勧めですね。
 この本のカバーは、恩地の「赤について」という作品と「自分の死貌」という作品が使われており、凝った装幀がなされています。また、装幀資材についても言及されていて、こだわりが感じられます。

2012-06-01 Fri 18:31 | 新刊本

2012-05-29 Tue

杉山平一 「巡航船」 (編集工房ノア) 2009年11月2日刊


 この本は、昭和27年9月10日に審美社から出された「ミラボー橋」に、それ以降に書かれたものをまとめて1冊としたものです。杉山氏は、「詩がどうあるべきかを考えるにつれ、私は詩を作るために自らをひどくゆがめなければならないのに次第にくるしくなってきた。そして自分がもっとも素直に自分であるために、これら数々の散文を試みてみた。」と書いています。
     「隠す」という文章から
 生きるというのは、隠すということである。言葉は、隠すためにある。言葉は衣服である。しゃべったり、書いたりするのは、自分がいかに立派であるかを見せるためである。書くことは自分を隠す喜びである。嘘は表現のはじまりである。隠すべきなにものもなくなったとき、僕はどうしようかと思う。

2012-05-29 Tue 18:03 | 新刊本

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