Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-10-30 Tue

近藤聡乃 「不思議というには地味な話」 (ナナロク社) 2012・6・6刊


著者は漫画家、アニメーション作家で、現在はニューヨーク在住とのことです。最初は、海外での製作について書くように勧められたとのことですが、書かれたものの多くは、子どものころの思い出です。
 「カエルについて納得していないこと」では、大きな石をカエルに見間違えたことについて、「宮沢賢治のインドラの網に、『ほんのまぐれあたりでもあんまり度々になるととうとうそれが本当になる』という一文があります。『あれは見間違いではなく、カエルが石になったのだ』と半分はそう思っています。」とか、「応用の仕方を知りたい」では、「誰かが私に『絵の基準を他に応用するコツ』を教えてくれたら、もしかしたらどうにかなるのかもしれません。ただ『人に大人しくものを教わる素直さ』と『人がものを教えてあげたくなるような人柄』の両方に、自信がありません。」というように、とぼけた味わいのある文章が楽しめます。
 

2012-10-30 Tue 17:30 | 新刊本

2012-10-20 Sat

森榮枝 「麦わら帽子」 (編集工房ノア) 2012年7月7日刊


 作者のことは全く知りませんでしたが、ノアが出しているので購入しました。作者は現在80歳と高齢の方ですが、80年代から90年代にかけて、同人誌に発表していた六つの短編からなる作品集です。
 「済南まで」は、戦争中の大陸での日本人のおごりと、敗戦後の惨めな暮らしを対比したもの。「朴念仁」は、主人公が、小学校のときから一緒だった兄弟の兄と結婚するのですが、大人になって、この弟は、借金まみれで、結婚しているのに愛人を作り、周りに迷惑ばかりかけるどうしようもない人間になってしまいます。しかし、この弟は、女のように気のつく優しい子で、それは大人になっても変わりません。まるで兄とは正反対なのですが、主人公に言わせると、兄は、朴念仁なのでした。「六さんは、まわりの人から見ると嫌なおじんだ」で始まる「六さん」は、老人の孤独を描いたもの。「潮の泡」は、中年男性の女性の部下に対する淡い思いを綴ったもの。「とどまる」は、中小企業の社員の悩みを綴ったもの。「麦わら帽子」は、大学生の子どもがいる家庭の主婦が、手術を受けてから退院するまでの心のうちを綴ったものです。
 どの作品も、なかなか捨てがたい味わいがあります。
 

2012-10-20 Sat 12:00 | 新刊本

2012-09-21 Fri

高橋源一郎「ニッポンの小説2さよなら、ニッポン」(文藝春秋)2011年2月20日刊


 さて、日本の小説はどうなっていくのかパート2です。ここでも、従来の小説は終わっているということを繰り返し述べています。我々は、「現実」を強引に解釈しようとしているだけで、「生の現実」を知らない。たいていの場合、ぼくたちが読んでいる「文章」というものの大半が「できあがっているもの」で、既製品を組み合わせて書いている。そして、歌人の穂村弘の「我々の『今』には『もっと大きな意味で特別』なことがある。それは、人類の終焉の世紀を生きるという意味である。」という言葉や、吉本隆明の「若い人たちの詩を読んでみますと、全体の特徴としていえることは、『自然』がなくなっちゃっているということです。これにどう対応していいのかわからなくなっている。」といった発言を引きながら、「著者」がたどり着いた「果て」には「無」だけがあった。その「無」の中に、微細ななにかが、存在していた。それを名指すためには、おそらく、それまでとはちがう言葉を必要としていると結んでいます。
 はて、それで感動できるんでしょうか。

2012-09-21 Fri 17:44 | 新刊本

2012-09-21 Fri

高橋源一郎「ニッポンの小説 百年の孤独」(文藝春秋)2007年1月10日刊


 著者が、「日本」ではなくあえて「ニッポン」としたのは、この問題が、現実の「日本」ではなく、遠い極東のある国の文学の問題として書こうとしたか、あるいは逆に不変性のある問題として提起しようとしたからかもしれません。
 著者は、「文学」という集落に対する違和感と、その集落が没落の過程をたどりつつあるのに、もしかしたら消滅しそうになっているのに、そのことにほとんど誰も気付いていないのではないかということから、マルケスの「百年の孤独」のように、「ニッポン近代文学」の起源を探る旅をはじめたのでした。そうしたら、なんとすでにフタバテイは、「文学」では「真実」を描けないと考えていたのでした。
 小説や文学に可能性があるとしたら、「生者たちの公用語」から徹底的に離れ、そのことによって、別のなにものかを指し示すしかないのではないかと、著者は言います。
 問題は、仮にそれによって「真実」が描かれたとしても、それがおもしろいのか、感動できるのかということではないかと思いますが。

2012-09-21 Fri 17:41 | 新刊本

2012-09-21 Fri

朝山実「アフター・ザ・レッド」 (角川書店) 平成24年2月15日刊


 副題が「連合赤軍兵士たちの40年」となっているように、「連合赤軍事件」に関わった人たちの、「その後をどう生きてきたのか」を聴こうとしたものです。
 当たり前といえば当たり前ですが、皆さん、淡々と現実を生きています。ではありますが、そこに屈託がないわけではないと思います。そこがほんの少し垣間見られるところが、読みどころでしょう。それは例えば、こんな言葉に出ています。
 「正しいと思ったからやったんです、あのときは。ただ、正しいかどうかの判断に、迷いがあった。それが真実に近いと思うんですが。僕が革命闘争をやろうとしたことは間違ってはいなかった。それはいまもそう思っています。」、「当時僕らには、そんなに追い詰められたという気持ちはぜんぜんなかった。あれは森さんにとっての一つの挑戦だったと思うんです。新しい闘いを切り開くための。」、「実は、死ぬ覚悟というのは、そんなに難しくない。だけど殺すというのは決意をしても、なかなかできるものではない。しかし、(森は)それをやり切らないといけないと考えたのではないか。」

2012-09-21 Fri 17:38 | 新刊本

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