Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-12-12 Wed

小林信彦「四重奏カルテット」(幻戯書房)2012年8月28日刊


 「回想の」でやったことをすべて小説でやったのがこの本です。先の「回想の」に入れていた「半巨人の肖像」という作品をこの本にも入れています。
 小林は、59年に、乱歩の要請で、「ヒッチコックマガジン」の編集長に就任しましたが、この作品集は、その前後から、編集長を辞める62年ころまでの時代について書かれたものです。
 中でも「男たちの輪」という作品は、最初に構想したのが71年ころで、形にしたのが91年ということで、20年後のことでした。この作品について、小林は、「時代に遅れた二人の男が原っぱをさまようのを書きたかった。」と書いています。
 小林のいう時代とは、にせの重厚さ、荘重さを身に鎧ったある種の文化人、彼らに象徴される権威主義的な教養に反抗するのに「遊び」をもってすることができた時代であり、それがいつのまにか、「遊び」が一般に受け入れられてしまい、妙に物分りのよい評論家や文化人が増えてきたことに対する違和感のようなものを描いています。

2012-12-12 Wed 17:57 | 新刊本

2012-11-14 Wed

本の雑誌編集部編別冊本の雑誌16「古本の雑誌」2012年10月25日刊


 これは、本の雑誌の別冊で、古本にまつわるエッセイや古本好きによる座談会、果ては4コマ漫画まで収められています。装幀は、平野甲賀です。
 古本好きには大変楽しめる企画ですが、そうでない人にとっては、信じられないことがたくさん出てきます。
 例えば、座談会の中で、「2001年は2800冊ぐらいですね。そのうちダブリが314冊。」、「ぼくは1374冊中ダブリが487冊。」、「集めて楽しい売って楽しい、さらに読めるという付加価値まである。」、「読みたい本って家で探すよりも古本屋で買ったほうが早いですからね。」、「苦労して探した本を2000円くらいで買うじゃないですか。その翌日百円で見つけちゃうと悔しくて買わずにいられないんですよ。」、「本気の人たちはすごいですよ。閉まっている古本屋も開けさせる。」といった発言が出てきます。
 いやあ、実に励みになりますね。


2012-11-14 Wed 19:04 | 新刊本

2012-11-07 Wed

森達也 「メメント」 (実業之日本社) 2008年9月5日刊


 メメントとは、メメントモリからきていて、ラテン語で、意味は「死を想え」です。
 著者は、「死は排除したいけど、現実にそこにある。見て見ないふりはしたくない。平和を願うためには戦争を想わねばならない。この世界の豊かさや優しさを実感するためには、貧しさや憎悪から眼を逸らしてはいけない。」との考えから、いろいろ現実をみつめるためのエッセイを書いたとあります。
 なるほど、宗教の問題やメディアの問題、さらには表現の問題について書かれています。
 例えば、「圧倒的な情報量を瞬時に伝達できるテレビは、簡単に観る人の思考を停めることができる。」、「特に民意の増幅と感染を大規模に媒介するマスメディアが発達した現代に生きる僕たちにとって警戒すべきなのは、外なる悪ではなく内なる善なのだ。」、「事実など本来は伝えられない。省略や再構成はメディアの基本原理である。」、「表現には欠落が大事なのだ。受ける側は与えられるだけになる。喚起されなくなる。」など。
 メディアの側にいた(いる)者の実感があります。

2012-11-07 Wed 17:35 | 新刊本

2012-11-07 Wed

岡崎武志 「上京する文學」 (新日本出版社) 2012年10月25日刊


 著者は、故郷をあとにした作家たち、もしくは上京する若者を描いた作品たちを「上京者」という視点から読んでみたもの、最終的には「読書のすすめ」を目ざしたと書いています。これはなかなかおもしろい視点でまとめましたねという感じです。
 啄木については、「家族や故郷を捨て、東京という都市で一人暮らしをする若者の『心の姿』を短歌に託した。」とし、フォークソング歌手になぞらえたりしています。また賢治については、井上ひさしの「つねに自分の可能性は東京に出たらあると思っていたふしがある。」という言葉を紹介しています。太宰については、「東京に向かうことはむしろ下降に働いた。東京から離れるとき、彼の精神状態はいくぶん上昇していく。しかし上昇するとき、太宰の太宰たるべき創作力は弱まっていく。太宰はけっきょく上京するしかなかったのである。」。これなど就中白眉かなと思います。
 続編を期待したいところです。

2012-11-07 Wed 17:03 | 新刊本

2012-11-01 Thu

山田稔 「コーマルタン界隈」 (編集工房ノア) 2012・6・1刊


 元は、「文藝」に掲載されていたもので、81年9月に河出書房新社から刊行され、89年9月に新たな一篇を加えみすず書房から出されたものを、今回、元の河出版に戻すとともに、いくつかの加筆修正をおこなったとあります。
 コーマルタンとは、パリの一画にあり、「私流にいえば、昼間、百貨店目指して方々から押寄せて来た人並みが溢れ出て流れ込み日暮れとともに汚物を残して退いて行く、まるでどぶ川のごとき場所であった。」とあります。
 主人公は、日本からやってきて、コーマルタンに住み、大学で日本語を教えています。夜は売春婦も出没し、その一人との交流も描かれます。また、自分に冷たくされた男の悲しみを悲しんでいる女の話もあります。こうした人物造形は、異国ならではのものでしょう。

2012-11-01 Thu 17:52 | 新刊本

八十島法律事務所
〒060-0042
札幌市中央区大通西10丁目

周辺地図

●地下鉄東西線「西11丁目駅」下車
  3番出口直結 南大通ビル9階
●市電「中央区駅前」停留所より
  徒歩約2分
●近隣に有料駐車場有り

詳細はこちら>>