2013-01-22 Tue
戦争中四散してしまって、その生命の存否さえも不明だった詩人たちが、まるで自分の體温を探りあてたように、戦後の無殘な闇黒の中でやっとお互いを見出しあって結びついたのが、僕たちのコルボウ詩話會であったと、天野は書いています。
このコルボウ詩集は1960年の第10号まで出ているようですが、これは一番初めのもので、300部限定のものです。この詩集には、同人の略歴と住所録が載っていて、天野のそれは、北園町93となっています。天野の「我が感傷的アンソロジイ」で取り上げていた20人の詩人のうち半数の詩人が参加しています。
天野の「どんどん生長する」から
俺はこのごろどんどん生長するようだな
どんどん年をとるばかりか
俺の運命は皮を剥ぐようにさびれてくる
(略)
俺はどんどん死の方へ生長するんだな
まるで水に濡れた煉瓦のようにしずかだな
2013-01-22 Tue 22:25 | 古本
2013-01-18 Fri
著者は、この本について、20年も前に、ひどく粗末な体裁で、ごく小部数を内輪の読者のための限定本として、小さな世間へ送り出したと書いています。いわゆる「世に迎えられず」に逝ってしまった詩人たち(行方不明の人もいます)について書かれた本です。
大野新は、この本について、詩人の本質をあやまたずえぐる鋭さ、一瞥の間に、動く対象を截りとるデッサン力、センチメンタルな構えで、気どりやポーズを剥ぐ非情さにふるえたと書いています。
たとえばこんな文章があります。
「野殿啓介は、彼の持っている一番やさしいもので、自分を殺したのだと私は思う。」
「決して正体を見せてくれない『話そうと思っていたもの』そのものを、しみじみと肚の底を打割って語り合う時間というものを、われわれは生きている三十年四十年の長い家庭生活の中に、たった十分間も、たいていは持てないことになっているらしい。それは誰にとっても、どうやらそのように定まっているらしい。その得がての十分間を、どんなに嘆けば納得のいくように取り戻せるものか、途方に昏れて侘しくかなしく、天の一角を恨みたらしくみつめるおっさんの場に、わが山村順さんは正当に立ちどまったのではあるまいか。」
2013-01-18 Fri 22:56 | 古本
2012-12-13 Thu
終戦直後、東京の焼け跡で、湿っぽい防空壕で寝起きしてた男が、どぶにはまって死んでいるのが発見されます。その後、この男の知り合いが、位牌を預かるのですが、それを引き受けた男たちも次々と死んでいきます。その中で、唯一戦後も生き延びた男が、ふと生と死の狭間に入り込み、「完全に死ぬとはどういうことなのか。完全に生きなかった者は、完全に死ぬこともできないでいるのか。しかし、完全な生などというものがあるのだろうか。」と述懐するという話です。
結城は若いときに結核にかかり、せいぜい30までの命と思っていたそうです。それが50を過ぎても生きていて、「いったい、俺の人生ってなんだったんだろう、としきりに考えるようになっていました。それを小説の形にしたのが『終着駅』で、これは題名どおり私の“終着駅”という意味も含んでいます。」と言っています。
2012-12-13 Thu 18:35 | 古本
2012-12-12 Wed
元本は、乱歩生誕100年である1994年に発行されています。
内容は、乱歩の下で働いた経験を持つ小林兄弟の対談、乱歩についてのエッセイ、そして乱歩の下で働いていたころのことを描いた小説で構成されています。
小林は、乱歩に対する正当な評価およびイメージを持ってもらいたいとの想いで、この本を出しています。
解説を書いている坪内祐三は、マニアックな分析とともに、この本が、20年以上の時をかけて見事に完結した作品となったと評しています。
2012-12-12 Wed 17:47 | 古本
2012-11-14 Wed
編者は荻原魚雷で、出典を見ますと、全集に収められていないものからも拾っていることが分かります。この第3巻は、「作家」と題されていて、書くこと、読むこと、作家として暮らしていくことなどについてつづったものを収めています。
解説は荒川洋治で、吉行の文章について、「軽快だが、だいじなところに、やはり、ふれる。さらにふれているのに、ふれていることが目立たない。そこが涼しい。気持ちのいい文章だと、ぼくは思う。」と書いています。
しかしなかには、オヤッと思うほど熱い文章もあります。例えば、「敗戦を軍国主義と画一主義の崩壊とみなして、自分たちの敵が負けたという錯覚を持った人が多かった。私もその一人である。」、「戦争で死んだ人達は、強制的に犬死させられたのである。後に残った人々がそう認識することが、彼らに対する『慰霊』なのである。」などがそうでしょう。
2012-11-14 Wed 18:44 | 古本
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