Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-03-08 Fri

清水昶 「詩は望郷する」 (小沢書店) 昭和60年8月20日刊


現代において詩を作るとはどういうことかとか、石原吉郎や辻征夫、北村太郎、黒田喜夫といった詩人たちについて書かれたエッセイ、評論集です。
 なかで、詩人天野忠と作家三島由紀夫を対比して、次のように分析しています。
 人間皆平等という発想はニヒリズムなのである。自分と他人との間を区別する個人性を喪失させてしまうからだ。天野忠は、そういう世界こそが人間を支えるものであり人間ひとりひとりが意味を持って生きているとかんがえること自体、傲慢すぎると思っている。
 逆に三島由紀夫は人間ひとりひとりに意味があるからこそ、自分の個人性を中心にしても世界は動かせるとかんがえていた。
 しかし現実には生理としての老いがあり死がある。三島は命という自然に絶望したのだ。
 天野忠も、同じく絶望している。両者はただ生の見方がみごとに正反対なのである。
 また石川啄木についてはこんなことを言っています。
 現在啄木について語ることは憂鬱である。とくに「時代閉塞の現状」について語ることは。何回も読みなおしたけれど、読みなおす度に、何だ、これは、いまの時代と同じではないかといったしらじらしい思いに駈られるからである。

2013-03-08 Fri 21:26 | 古本

2013-03-04 Mon

辻征夫 「詩の話をしよう」 (ミッドナイト・プレス) 2003年12月18日刊


 辻は、2000年1月14日に、60歳で亡くなりましたが、この本は、1998年9月17日から、1999年10月6日まで、5回に亘る詩人の山本かずことの対談をまとめたものです。
 中で、自分の内面を、水を入れた透明なビニール袋にたとえる話や、詩で大切なことのひとつは、厳密さということであり、曖昧なのは詩ではないと言い切るなど、興味深い話が出てきます。
           宿題
 すぐにしなければいけなかったのに
 あそびほうけてときだけがこんなにたってしまった
 いまならたやすくできてあしたのあさには
 はいできましたとさしだすことができるのに
 せんせいはせんねんとしおいてなくなってしまわれて
 もうわたくしのしゅくだいをみてはくださらない 
 わかいひに ただいちど 
 あそんでいるわたくしのあたまにてをおいて 
 げんきがいいなとほほえんでくださったばっかりに
 わたくしはいっしょうゆめのようにすごしてしまった

2013-03-04 Mon 21:20 | 古本

2013-02-21 Thu

山中散生「JOUER AU FEU(火串戯)」 ボン書店 昭和10年6月25日刊


 山中の第一詩集がこれです。タイトルは火串戯と書いて、火遊びと読みます。山中は、シュールレアリストであり、シュールレアリスムの正しい紹介者でした。
 なので、
   君はうなぎ丼あなたは鯛めし僕は癇癪
   折鞄は網棚へ、明日なら歳が喰べられた
 というものもありますが、こんなのもあります
        雨の脚
   僕のアンブレラのなかには君もゐる
   この窓あの屋根を下ってもろもろの口笛も戻る
   君はそんなに耐へかねてゐる
   僕はそんなに剛情だ
   小鳥たちが超え聲を落として羽搏くこともやる
   夕暮が夜に呑まれた
   僕のアンブレラのなかには僕はゐない
 当時この本の装幀上の特色(用紙は山家紙、外装はカス入り楮紙)が、フランスのシュールレアリストに大きな反響を与えたそうです。

2013-02-21 Thu 21:25 | 古本

2013-02-21 Thu

cendre(サンドル) アサギ書房 昭和23年1月1日、3月刊


 編集兼発行者は北園克衛で、「VOU」を改題したものです。昭和23年に発行され、6号で終刊となったようです。写真のものは、そのうちの第1号と2号です。黒田三郎や、山中散生、田村隆一などが寄稿しています。
 第2号で、山中は、「サッポロ通信」と題して、こんなエッセイを書いています。
 「札幌に住むようになってから丁度一年半になる。文化的に索莫たるこの土地での生活の単調さは想像以上である。(略)すべての通行人の表情は固く、服装は汚い。」
 山中は、NHKに勤務していて、昭和21年6月に札幌に来て、昭和23年5月に静岡に転勤しています。山中は昭和36年に退職し、昭和52年に亡くなっています。

2013-02-21 Thu 21:17 | 古本

2013-02-13 Wed

上林暁「聖ヨハネ病院にて」 (新潮文庫) 昭和24年8月20日刊


 先に紹介した「ツェッペリン飛行船と黙想」の中に、私の代表作というのがあって、上林は、「野」について、「(この作品は、)具眼の士によって私的には認められながら、それが公の場で認められることがなかった。広く読まれる性質の作品ではないが、私の魂の真髄がこめられている作品であると自認している。」と書いています。
 この「野」という作品が収められているのが、この作品集です。
 この文庫の解説は、伊藤整が書いているのですが、この作品について、「この作品は態度としても一貫していないし、その内面告白も多く蔽われている。ある部分では戦闘的に生に対して強く出、ある部分は自己の存在を疑い、ある部分は抒情し、ある部分は夢想し詠歎している。しかし描くこと、感ずること、生きることが一つになろうとする芸術家の生命の誕生の苦しみという点では一貫した重厚なものがあり、ここを経た人はどのようなことにも屈服し切らないと推定される強さに達している。」と、評しています。

2013-02-13 Wed 20:52 | 古本

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