Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-08-09 Fri

加能作次郎「世の中へ」 (新潮社) 大正11年5月28日刊


 大変古い本ですが、新潮社の中篇小説叢書の1冊として出された本で、価格は75銭でした。加能は明治18年に石川県で生まれ、いろいろ苦労した挙句、大正7年に読売新聞に連載された、この「世の中へ」という作品で、作家としての地位を確立します。
 この作品は、加能の13歳ころから15歳ころまでの生活を描いたもので、自伝的作品です。
 主人公は、商売をしている伯父を頼って、石川県の僻村から京都に出てくるのですが、期待に反し、中学に行かせてもらえず、伯父の家で働かされることになります。それまでとは全く違う生活に戸惑い、ろくに口も聞けなかったのですが、最後には「『おい出やあす。おあがりやあす。』『お帰りやあす。』と、声を張りあげて間断なく呼ばはって居る」まで成長するというお話です。

2013-08-09 Fri 18:08 | 古本

2013-07-30 Tue

梶井基次郎 「檸檬」 (集英社文庫) 1991年5月25日刊


 これは集英社文庫ですが、これまで紹介した作品集のなかで、一番新しいものです。ですので、冒頭に、4ページにも亘り、写真を載せ、年譜もあり、なかなか充実しています。
 しかし、何より特筆すべきは、呉智英による、鑑賞という名の解説でしょう。
 彼は、梶井の「桜の樹の下には」、石川淳の「山桜」、坂口安吾の「桜の森の満開の下」も三つの作品を比較して、それぞれの作品を書いたときの作者の年齢に注目します。
 そして梶井と石川や坂口の作品の違いは、青年と壮年の間にある断層を超えていたかいないかにあるとします。
 この断層を越える時、感受性の鋭敏な者は、桜の花の背後にある死の匂いを感知する。
梶井はまさに、この断層を越えつつあった、越えようとしていたのであった。そこが、石川や、坂口との違いである。
 なるほどね。

2013-07-30 Tue 18:22 | 古本

2013-07-20 Sat

梶井基次郎全集全一巻 (ちくま文庫) 1986年8月26日刊


 この文庫は、昭和41年4月から6月に筑摩書房から刊行された「梶井基次郎全集」前3巻本を底本としたものですが、書簡もありませんし、年譜もなく、残念ながら全集の名に値しません。なぜこれを全集と銘打ったのか、編集部の見識が問われましょう。
 とは言いつつ、梶井の作品の価値とは無関係です。梶井の作品は、思いのほか現代的で、古さを感じさせません。例えば、
 「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」(檸檬)
 「私の病んでいる生き物。私は暗闇のなかにやがて消えてしまう。しかしお前は睡らないでひとりおきているように思える。そとの虫のように・・・・青い燐光を燃しながら。」(ある心の風景)
 「雲が湧き立っては消えてゆく空のなかにあったものは、見えない山のようなものでもなく、不思議な岬のようなものでもなく、なんという虚無!白日の闇が満ち充ちているのだということを。」(蒼穹)
 「課せられているのは永遠の退屈だ。生の幻影は絶望と重なっている。」(筧の話)

2013-07-20 Sat 13:04 | 古本

2013-07-20 Sat

梶井基次郎「檸檬・ある心の風景」(旺文社文庫)1972年12月10日刊


 梶井が生前発表していた20篇の作品と、3つの遺稿で構成されています。特筆すべきは、梶井の年譜があることと、石岡瑛子氏のイラストが入っていることです。
 解説の中で、梶井が亡くなる約1ヶ月前に、友人の中谷孝雄宛に書かれた手紙が引用されています。それは、
 「僕は『のんきな患者』(注・最晩年の作品)で、これまでの自分の文学からはちがって来た、またちがってゆくつもりを持っている。僕は昔は気持ちよい自然観照の眼から一度自分の行手自分の病気ということを振り返って見るとやけくそにならざるを得ないような気持ちになって、それがあのような未熟な作品になったかと思うがやはり人間というものはやけくそではいけないということが僕にもわかって来たので、それは文学といわず僕の生活全体をその方に向けるつもりで僕もいる、非常にあたり前でつまらないようだが、絶望しながら生きているということは結局僕にはできない。」 

2013-07-20 Sat 13:00 | 古本

2013-07-20 Sat

梶井基次郎 「檸檬」 (新潮文庫)  昭和42年12月10日刊


 夏といえば檸檬、檸檬といえば梶井基次郎でしょう。梶井は昭和7年3月に32歳で亡くなっており、もう81年も経過していますが、いまだ色あせない光芒を放っているといえましょう。
 この新潮文庫は、梶井が生前同人誌に発表していた20篇の作品のすべてが収められています。
 特筆すべきは、解説を、生前親交のあった淀野隆三が書いていることで、彼の人柄や、人生、彼が生きていた時代の文壇の状況、そして作品について要領よく書かれています。彼の代表作である檸檬について、こう書いています。
 「実際梶井は頽廃を描いて清澄、衰弱を描いて健康、焦燥を描いて自若、まことに闊達にして重厚な作風である。そうして特に私はこの一編に現れた西欧的な風格を指摘したい。そこには批判も、それより生まれるところの諧謔さえもがある。日本的自然主義とも耽美頽唐派とも、また心境小説、私小説とも異なる独自の小説である。」

2013-07-20 Sat 12:57 | 古本

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