2014-01-07 Tue
これは、1967年死の1年前に書かれた、最後の長編です。ストーリーは、世界が氷河期に向かい人類滅亡の危機が迫る中、主人公が一人の少女を追っていくという話ですが、お話で読ませるというものではありません。
翻訳者のまとめにあるように、作者は、自身の個体としてのフィジカルな死と、存在論的な死をみつめるメタフィジカルな視線、そして、それらに対峙する(もしくはそれらを包摂した)氷=外世界の終末という三つの視点を持つ、神秘的な現実=幻想空間を提示しています。
主人公は、「私にとって、現実というものは常にその量を計り知ることのできない存在であった。」と呟きますが、これは作者そのものの独白でしょう。
「生命と無機質の結晶に屈服し、窓外にはただ、死の極寒が、氷河期の凍れる真空が広がっているばかりだ。時間と空間が飛ぶように過ぎ去っていく。ポケットの中の銃の重さが心強い安心感を与えてくれる。」ということで、この作品は終わっています。
2014-01-07 Tue 17:32 | 古本
2013-12-03 Tue
山本健吉選による、代表作10篇を収めたものです。
彼は、明治20年に弘前市で生まれ、父親の事業の失敗により、2歳から5歳まで、寿都で生活し、学校を出たあと、16歳から18歳まで、岩見沢で鉄道の車掌をしており、北海道に縁のあるひとでした。
大正元年26歳ころから作品を発表するようになり、代表作「子をつれて」は32歳のときの作品です。38歳ころには、自分で原稿が書けなくなり、牧野信一や嘉村礒多が口述筆記をします。そして、昭和3年42歳でなくなりました。
牧野の口術筆記で書かれた「椎の若葉」から
「椎の若葉に光りあれ、僕はどこに光りと熱とを求めてさまよふべきなんだろうか。我輩の葉は最早朽ちかけてゐるのだが、親愛なる椎の若葉よ、君の光りの幾部分かを僕に惠め。」
2013-12-03 Tue 19:00 | 古本
2013-12-02 Mon
安原は、昭和3年の秋に、大岡昇平の紹介で、中原に会い、以後中原が亡くなるまで、唯一交際を続けていました。よく知られていているように、中原は、酒を飲んでは誰彼の見境なくからみ、彼の周囲の者たちと次々と喧嘩をし、友人達は彼の元から去っていきました。それはまったく痛ましい眺めであったと安原は書いています。
この本は、昭和5年5月から中原が亡くなる直前の昭和12年10月までの中原から安原に宛てて書かれた手紙100通と、それに対する安原のコメントで成り立っています。最初これは中原がなくなって3年後の昭和15年10月から、同人誌「文学草紙」に連載していたものですが、当時、「我々詩人の友人の間では、彼について触れることはある意味で一種のタブーの感があった。」と書いています。中原が詩人として評価されるようになったのは戦後になってからでした。
安原は「とにかく私にとって中原との交遊は、したがって中原との出会いは、決して楽しいものではなかった。思い出は辛く、心重い日々の連続である。この間に私はいつしか文学志向を捨て、筆を折った。」と書いています。
2013-12-02 Mon 17:39 | 古本
2013-11-14 Thu
250冊のうちの1冊で、加宮貴一様と書いてあり、阪本の署名も入っています。加宮貴一という人は、阪本より5歳年下で、戦前に川端康成らと「文藝時代」という同人誌を出していた作家だったようです。
阪本の詩は、昭和初期のモダニズム詩で、今の目から見ると、メランコリックで、甘いということになりましょうか。
貝殻の墓
海は貝殻の墓 青い響で
大型帆船の底にぶつかり
喜望岬の岩を削ってゐる
生をあざけってやるために
この本の装幀は、北園克衛がしています。シンプルなものですが、グリーンの色と、LIBRAIRIE BONという文字がとてもモダンです。
2013-11-14 Thu 19:54 | 古本
2013-11-14 Thu
この詩集について阪本は、「私の海について歌った作品を主に集めてみることにした。」「私はこれからもう少し、海を歌うことに精出し、海洋への精神を探求したいと思ってゐる。今この詩集はその糸口となるものかと思ふ。」と書いています。装幀は臼井喜之介がしています。
自殺した生田春月に捧げられた「海の遺失」という詩から
「海へはまって死んだとは
さても美しい死に方だ」と
フランスの詩人は言ふのだが
われらの詩人はそこで見えなくなった
さてはやさしい天使だったか・・・・・・
だがだれもそれを知らなかった
彼の死は何も変えなかった
気軽に船を乗せたまま
青い月夜の海は ひろがっていった
さても美しい死に方だ
海へはまって失せたとは
2013-11-14 Thu 19:48 | 古本
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