2014-02-01 Sat
著者は、あとがきで、「初めは自分の心の底にある虚栄や見え、気取りや愚かさをさらけ出すことで己を見つめ直すつもりだったのが、書き終わってみると、ぼくが生まれてからこれまで、ぼくの人生を豊かに形づくってくれたたくさんの人々の善意に気づく旅になっていた。」と書いています。
講演で人生とは何かといった話をしていると書いて、著者が高校生のときに父親から言われたことを書いています。
夕食時に、何かの折に、「地球は丸い」と言ったところ、父親は、「高校へ行ったぐらいで、いいかげんなことを言うもんでない。」と言ったそうです。そこで著者が「本当なんだ。」と声を高めたところ、父親は、「お前見たのか。」と言ったそうです。このエピソードを紹介したあと、著者は、自分の講演を父親が聞いたら、「おまえ、人生を見たのか。」と鼻で笑われそうで顔が熱くなる。父は、こうしてときおりぼくの中に現われては、ぼくの不遜になりかかる心を戒めてくれているのだろうと書いています。
2014-02-01 Sat 18:03 | 古本
2014-02-01 Sat
これは、昭和17年8月13日ビルマの野戦病院で病死したとされる森川義信について、友人であった鮎川が書き記したものです。鮎川はこう書いています。
「昔、彼と一緒に歩いた夜の街をぶらつき、足下から始まる距離をたぐるようにして、いつまでも醒めない私たちの夢の歴史の根源まで遡ってみたいものだと考えた。(略)失われた街をさまよってみたが、私以外の誰も見ることのできない幻に出遭っただけであった。(略)森川のいない街はつまらない。それがこの旅の唯一のテーマであったと思う。」
亡き森川の評伝を書ききるには、鮎川はあまりにも森川と親し過ぎたのだと
思います。
2014-02-01 Sat 17:52 | 古本
2014-01-31 Fri
この詩集は、最後の詩集で、この詩集が編まれた時点で、菅原は入院中でした。菅原は、この詩集が出た年の3月31日に亡くなっています。
「風の日」から
女の子が遊びにきて
おとなしく腰かけて
じっとこっちを見ている
ぼくも黙って子供をみている。
すると、ふいに立ち上って
僕の肩を揉みはじめた。
学校で先生の肩を揉んであげる。
そしたら
いつもほめられる、という。
そうか、
そんなことがかなしくなるのか。
年というものの
この細い点線をたどってゆくと
すべてそうなるのか。
もういいよ、とぼくはいう
2014-01-31 Fri 17:39 | 古本
2014-01-29 Wed
小説とも評論とも随筆ともつかぬ7篇が収められています。解説で山田稔は、「威勢のいいもの、颯爽たるものを信頼しない。一切を疑い、しかし絶望はしない。この立場を彼は『ニヒリズム楽天主義』と名づけた。『ごつごつした、厄介な、片の付きそうにない、難儀なもの』への強い関心が、富士正晴の仕事の全体を貫く太い線として今日にまで及んでいる。」と書いています。本書にも、これは縦横に現れています。輯中のある一篇はこんな終わり方をしています。
「これで歴史小説を書いたつもりなんですか?」
「いや、書くつもりではおったんやが、気がついてみると妙になってたな」
「では何です、これ?」
「歴史にかかわり合うてしんどかったという私小説かな?」
2014-01-29 Wed 17:12 | 古本
2014-01-08 Wed
これは著者と、その師であった由良君美との関わりについて、由良の家系に遡り、また師と弟子の関係について、ジョージ・スタイナーや山折哲雄の著作を引用し書かれたものです。
70年代から80年代にかけて、東大駒場のキャンパスにあって、由良は一世を風靡したカリスマ教師でした。四方田は、その由良の優秀な弟子でしたが、ある時期由良から疎んじられるようになります。かつて心酔していた師であったが故に、おそらく受け入れがたいものがあったのでしょう。そこで著者は、由良を知る者に会って話を聞き、由良の家系まで調べてその人となりを理解しようとします。その結果、次のように書いています。
「自分があまりにも彼の当時の心情を蔑ろにしていたことに思い当たったのである。わたしは弟子の観点から師を仰ぎ見ることに懸命であって、師の側に立って弟子を見るという発想をまったく持ち合わせていなかったのではないだろうか。」、「わたしは自問する。はたして自分は現在に至るまで、由良君美のように真剣に弟子にむかって語りかけたことがあっただろうか。弟子に強い嫉妬と競争心を抱くまでに、自分の全存在を賭けた講義を続け、ために自分が傷つき過ちを犯すことを恐れないという決意を抱いていただろうか。」
2014-01-08 Wed 17:26 | 古本
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