Renkei日記 - 八十島法律事務所

2014-03-29 Sat

石原吉郎 「望郷と海」 (ちくま文庫) 1990年12月4日刊


この本は、1945年、ハルピンで戦犯としてソ連軍に抑留され、1953年に特赦で日本に帰還した石原が、シベリア各地の捕虜収容所を転々とした体験をもとに執筆した全エッセイを収録したものです。
 内容は実にすさまじいの一言に尽きます。
 例えば、彼の友人である兵隊が、収容所において、絶食を始めます。彼が絶食を始めた理由というのは、彼が、他の日本人受刑者とともに公園の清掃と補修作業にかり出されていたときに、たまたま通りあわせた市長の令嬢が、これを見て心を打たれ、すぐさま自宅から食物を取り寄せて、一人一人に自分で手渡しました。ところが、「このような環境で、人間のすこやかなあたたかさに出会うことくらいおそろしいことはなかったにちがいない。鹿野にとっては、ほとんど致命的な衝撃であったといえる。」「これが、鹿野の絶食の理由である。人間のやさしさが、これほど容易に人を死へ追いつめることもできるという事実は、私にとっても衝撃であった。」
 このあたりは、まったく理解することができません。
 この本は、解説で八木義徳が書いているように、人間が最悪の絶望的な状況に置かれたときに、その生きようとする意志は、ほとんど“美”という形まで昇華されるということと、その一方で人間はどこまで無際限に“堕落”し得るものであるかということを教えてくれます。

2014-03-29 Sat 15:55 | 古本

2014-03-27 Thu

木山捷平「落葉・回転窓」(講談社文芸文庫)2012年12月10日刊


 11の短編からなる小説集です。解説を書いている岩阪恵子は、この11の短編に底流しているのは、木山が21歳のときに書いた、「妙な墓参」という詩から受ける感じと同じであると書いています。その詩とは、
    十八で死んだ処女の墓に参った。
    話したこともなく
    したしかったのでもなく
    恋してゐたのでもないけれど
    山からの帰るさ
    つい墓に出て
    そっと野菊をそなへた。
    そしたらその女が妙に
    愛人のやうに思はれて来た。
    秋の陽はやわらかに照って
    へんにたのしく
    へんにさびしかった。
 「口婚」という作品がありますが、これなどつげ義春の「赤い花」を思わせます。

2014-03-27 Thu 19:50 | 新刊本

2014-03-27 Thu

木山捷平「角帯兵児帯・わが半生記」(講談社文芸文庫)1996年11月10日刊


こちらは、「角帯兵児帯」から、「敗戦直後満州で作った歌」を除いたものに、「文壇交友抄」、「わが半生記」ほか数編のエッセイを加えた編集となっています。
 「文壇交友抄」の中で、蔵原伸二郎について、蔵原の子供が小学校1年生の夏に、朝早く家にやって来て、妙にそわそわしているので、わけを訊いてみたところ、子供が生まれて始めて学校から通知簿をもらってくるので、「家にいてもそわそわするので、わざわざ私の家に来てそわそわしていたわけであった。」とか、
将棋について、井伏鱒二から「君は八段の真似をするね。文章でもポーズで書く人があるね。」と言われたとか、書いています。井伏という人は怖い人ですね。
 この文庫の最後に荒川洋治が、「木山捷平は、文学になる以前の言葉のようすにも、思いを寄せつづけた人である。その思いをもつことで、遠近、無数の人を言葉のなかに浮かべることができたのだと思う。」と書いています。

2014-03-27 Thu 19:46 | 古本

2014-03-25 Tue

木山捷平 「角帯兵児帯」 (三月書房)  昭和43年1月25日刊


 木山の、主として晩年に書かれたエッセイ集です。タイトルになっている角帯兵児帯という一文は、「帯を後に結んでおくと、ついそのまま寝てしまい、眼がさめた時、帯の結び目が背骨にストレスをおこして、神経痛がおこりがち」であるから、「日本の男はすべからく帯は前結びにするように」という新工夫はないものであろうかと嘆きます。また、隣近所では一軒のこらず泥棒にやられているのに、自分の家には入られたことがないことを嘆いて、「だから私は近頃では夜も昼も玄関に鍵をかけないで、焼酎の四合瓶を一本用意して、来たら一緒に飲もうと心ひそかに待ち受けているのであるが、それでも泥棒はなかなか入って来ないのである。」ととぼけたことを書いています。
 この本の終わりに「敗戦直後満州で作った歌」が載せられています。その中の一首に
    幼な児に自刃をしへし友とのむ真昼の酒の腹にしむかも
というのがあります。この友というのは、詩人の逸見猶吉のことです

2014-03-25 Tue 19:46 | 古本

2014-03-04 Tue

安藤鶴夫随筆集「百花園にて」 (三月書房) 昭和42年1月1日刊


     こんなことを書く人です。
 「生きているということは、結局、感動をさがしていることじゃないか、と気がついたのも、ちょうど、五十面をさげたころである。ただ、そんなこと、いい年ォしてはずかしくって、いえなかった。それが、このごろ、そんなにもはずかしがらずに、いえるようになったのである。なったら、そのころから、感動することが少なくなった。なくなったといってもいい。」
 「ことばを、いちばん、愛して、大切にするということは、じつはしゃべらないということかも知れない。」
 

2014-03-04 Tue 18:39 | 古本

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