Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-08-29 Thu

北川冬彦 「詩の話」 (角川文庫)  昭和31年10月30日刊


元本は昭和23年12月に出されているようです。著者も詩人ですが、この本を出した目的は、現代詩の社会的地位の向上と確立のための一助にするということだったようです。
元本は、それなりに需要があったようで、昭和28年3月の版では、「第5版を出す今日、事態は一変している。世間一般の現代詩の認識は急速にすすみ、社会の明るみに躍り出た。現代詩はまさしく確認された。」と書いています。それから60年以上も過ぎて、現代詩は、また行方不明になっているのかもしれません。
この本は3部構成になっていて、第一部では、22人の詩人の作品について解説されていますが、辛口のものもあり、安西冬衛については、詩をわからなくさせ、詩の社会性を喪失せしめると書いています。
第二部は現代詩の諸問題となっています。そこで著者は、「作者と作品との距離によって生じる詩的現実というものの理解と把握につとめられたい。これの理解なくしては、現代詩の醍醐味は味わい得られないのである。」と書いています。
第三部は詩の定義となっています。著者は、「私は詩とは、宇宙に瀰漫、潜在する動物精気だと思う。詩とは動物精気が知性の組織に吸収された状態であって、直接簡明な言語表現によって結晶化されたものである。」と書いていますが、動物精気って生きる力そのものということなんでしょうかね。

2013-08-29 Thu 19:19 | 古本

2013-08-22 Thu

富士正晴「極楽人ノート」 (六興出版) 昭和54年6月25日刊


 富士正晴のエッセイ集です。ほとんどが人物評となっています。
 表題となっている「極楽人ノート」では、こんなことを書いています。
 「何でまたと不思議であったが三島由紀夫が夢に出てきた。」という話から、彼の人生は、「幼いころから男の子の世界に飢渇感をおぼえつづけ、その世界に、次々に思いを遂げた」とし、「しかし、男の世界に、男っぽく努力して思いを遂げたというのも考えてみれば中々技巧的なはなしで、そのあたりも、三島由紀夫は計算して一段一段無理なく登っていったのだと思わざるを得ない。」と書いています。

2013-08-22 Thu 19:51 | 古本

2013-08-22 Thu

ねじめ正一 「荒地の恋」 (文春文庫) 2010年7月10日刊


 無類に面白い本です。「荒地」とは、この話の主人公である北村太郎と田村隆一が属していた詩人たちのグループで、北村と田村は、中学時代からの友人でした。ところが、何を血迷ったのか、北村は53歳にして、田村の連れ合いに恋をし、家族を捨てて、田村の連れ合いと一緒になります。そうまでして一緒になったのに、女はやがて田村の元に帰り、北村はどうするのかと思いきや、妻の元には戻らず、娘より年若い女性に恋をするということになります。
 まあこれはフィクションではありますが、外形的事実は、そのとおりであったようです。
 自身も詩人であるねじめは、田村は詩のためだけに生きている男であると書き、北村については、仕事を捨て、家族を捨てることで詩作をするようになると書いています。まあ片手間では詩は作れないということでしょう。
 この本の解説を書いている映画監督の西川美和は、「生活」を舐めたことで二人とも生活に復讐されたが、代わりに「生きた言葉」の湧き出す、血の通った人生を手にしたと書いています。
 

2013-08-22 Thu 19:48 | 古本

2013-08-09 Fri

加能作次郎作品集(講談社文芸文庫) 2007年1月10日刊


 加能は、昭和16年8月に56歳でなくなりますが、作品は大正年間に大半が出版され、昭和に入ると作品が少なくなります。昭和初期の、プロレタリアだとか、モダニズムといった風潮が彼の作風と合わなかったという事でしょう。
 しかし、昭和15年8月「中央公論」に発表した「乳の匂い」は、もっとも知られた作品です。
 これは、著者と思しき少年と、彼の義理の従姉との交流を描いたお話です。この作品のなかで、この従姉が、少年の目に入ったごみを乳汁で洗眼するというシーンがあります。
 荒川洋治は、解説で、「母なるものへの思いがしたたる」と書いていますが、私は母ではないだろうと思いましたね。素直に。
 加能の作品には、随所に昔の日本語のなんともいえないあたたかみみたいなものが伝わってきます。荒川は次のように書いています。
「『昔あったとい。』『聴いたわね。』の声は美しい。そして楽しい。その声は優しい文字、あたたかい言葉となって、世の中へ届けられた。」

2013-08-09 Fri 18:11 | 古本

2013-08-09 Fri

加能作次郎「世の中へ」 (新潮社) 大正11年5月28日刊


 大変古い本ですが、新潮社の中篇小説叢書の1冊として出された本で、価格は75銭でした。加能は明治18年に石川県で生まれ、いろいろ苦労した挙句、大正7年に読売新聞に連載された、この「世の中へ」という作品で、作家としての地位を確立します。
 この作品は、加能の13歳ころから15歳ころまでの生活を描いたもので、自伝的作品です。
 主人公は、商売をしている伯父を頼って、石川県の僻村から京都に出てくるのですが、期待に反し、中学に行かせてもらえず、伯父の家で働かされることになります。それまでとは全く違う生活に戸惑い、ろくに口も聞けなかったのですが、最後には「『おい出やあす。おあがりやあす。』『お帰りやあす。』と、声を張りあげて間断なく呼ばはって居る」まで成長するというお話です。

2013-08-09 Fri 18:08 | 古本

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