Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-06-25 Tue

大野新「沙漠の椅子」 (編集工房ノア) 1977年6月15日刊


 あとがきで、大野は、「ひと言でいえば、私の文は、『沙漠の椅子』に耐えた、あるいは耐えつつある詩人への賛辞に尽きるだろう。」と書いています。
 この本で取り上げている詩人は、石原吉郎、清水昶、天野忠などです。
 石原については、「自分が被害者の一人として生きのびたことをはげしく責めつづけたただひとりの日本の表現者である。」と書いています。
 また、天野については、次のようなエピソードを紹介しています。
 関西の詩人たちが、西脇順三郎と京都南禅寺のある庵で会合したときに、天野が西脇に、京都人気質というのは、あくまで一定の距離をとってもらいたいというものだと話した後で、「庭は便所の窓からみるのがよろしいな。庭が油断してますさかいに。」と言ったと。
 こういうのを「いけず」というのでしょう。

2013-06-25 Tue 19:40 | 古本

2013-06-24 Mon

井上多喜三郎「多喜さん詩集」 (亀鳴屋) 平成25年3月23日刊


 井上は、1902年滋賀県近江八幡市で呉服屋の長男として生まれ、生涯衣服の行商を生業とした人でした。昭和20年に43歳で応召され、その年敗戦を迎え、ウラジオストックなどで約1年半、収容所で抑留生活を経験しています。このときセメント袋のはじをメモ帳にして、詩を書いては褌に秘し、帰国後「浦塩詩集」を刊行しています。
 彼は昭和41年4月に交通事故で亡くなりますが、戦前モダニズム詩人として出発し、生涯詩作を続けました。「詩は私の宗教」というのをモットーにしていたそうです。
 未発表遺稿から
            偶
     おもいだしたような営みだが
     ときには女房が
     曲がった腰をのばして
     こえを上げることがある
     私もついつりこまれて
     老年を忘れたりするのだが
     愛はさりげなく
     そのぐるりをとり巻いていた

2013-06-24 Mon 19:36 | 新刊本

2013-06-12 Wed

小山清「日日の麺麭・風貌」(講談社文芸文庫) 2005年11月10日刊


 小山は昭和33年12月に最後の小説集として筑摩書房から「日日の麺麭」を出していますが、この本はそれとは関係なく編まれています。
 小山は、昭和33年10月1日に脳血栓で倒れ、失語症にかかり、言葉と文字を失ってしまいます。そのため、小山一家は生活保護を受けるようになるのですが、それだけでは生活ができず、小山の奥さんは過労と心労で心を病んでしまい、昭和37年4月に睡眠薬を飲んで自殺してしまいます。
 母を喪った子供たちは、父である小山に向かって、「お母さんを還せ、お母さんを還せ。」といって迫ったと記録にあるようです。なんとも痛ましいエピソードです。
 その後小山は少しずつ言葉を回復していき、この本にも納められている「老人と鳩」、そして絶筆となった「老人と孤独な娘」といった作品を書いています。
 彼は昭和40年3月に急性心不全で亡くなりました。享年55歳でした。

2013-06-12 Wed 19:24 | 古本

2013-06-11 Tue

小山清 「落穂拾い・雪の宿」 (旺文社文庫) 昭和50年12月10日刊


 この本の解説の冒頭で、小坂部元秀は、「小山清の名前を記憶している読者がどのくらいあるだろうか。彼が歿したのは昭和40年であるが、小山清が失語症という作家にとって致命的な疾患によりその実質的な創作活動を停止したのは死よりさらに7年前の昭和33年秋のことだから、彼の名前が若い世代の読者からほとんど忘れ去られているのも致し方ないことかもしれない。」と書いています。この本が出た昭和50年当時すでに小山は幻の作家だったということです。
 そこで、この本は、小山の全体像を何とか浮かび上がらせたいという考えで編集したとあります。
 この本のなかに、「再び美穂によせて」というエッセーが入っています。小山は42歳で結婚し、43歳のときに長女が、45歳のときに長男が生まれています。このエッセーは、初めて子を持った父親の幸福な気持ちが素直に書かれています。

2013-06-11 Tue 19:46 | 古本

2013-06-07 Fri

小山清「落穂拾い犬の生活」 (ちくま文庫) 2013年3月10日刊


これは、小山の第1小説集である「落穗拾ひ」と第3小説集である「犬の生活」の2冊を1冊にまとめたものです。「犬の生活」は1955年6月に筑摩書房から出ています。ちなみにこの年の11月に「落穗拾ひ・聖アンデルセン」が新潮文庫から出ています。
 このころが、作家としてもっとも充実していました。
 この中に「その人」という作品があります。これは、横領の罪で8ヶ月ほど服役していたときのことを書いた作品です。「その人」とは、看守のことです。服役者として、看守の一挙手一投足に微妙に揺れる心理状態が描かれています。その中の一文から。
 「私は謝罪の心もなくて、『すみません。』と容易に云うことが出来る、そして面を拭っていられる、単純な奴にしか過ぎない。なんによらず、私は自分の過去のことで、なにが為になったなどとは云えもしない、云いたくもない。ただ、私のような者にも思い出がある。それだけだ。」

2013-06-07 Fri 18:17 | 新刊本

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