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2013-03-25 Mon
富士正晴 「軽みの死者」 (編集工房ノア) 1985年3月30日刊
昭和23年の秋ころに、富士は、吉川幸次郎から、「わしは儒者やから死後の世界というものはない筈なのだ。ところが、わしが死んで見ると、その死後の世界があったということ。」を小説に書いてほしいと頼まれます。そして書かれたのが、この本の冒頭に収められている「游魂」という小説です。富士は、吉川をモデルとした死霊にこんなことを言わせています。
「生きた人間の一生はなんと短いのだろう。だが、それは何と豊富なのだろう。輝くように眩しく思われるその短い時間を思う時、死霊の持つ無限時間というものは遂に生き身の人間の有限時間以上に有限のものとさえ思われてくるのだった。」
また、別の作品では、こんなことを書いています。
「私は大分前から死ぬのに決まっている病人の見舞には出かけない。いささか残酷といわれそうだが、平和でもこの世は戦場であるという気がしていると、行く気にはなれない。今度いつ逢えるかなあではなく、又、逢えるかなあとしかいえぬ戦時のこと戦時の境遇を思い出すと、今の若いテレビ育ちの人間のように甘い気分にはなれない気がして。」
2013-03-25 Mon 21:31 | 古本
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