Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-11-07 Wed

森達也 「メメント」 (実業之日本社) 2008年9月5日刊


 メメントとは、メメントモリからきていて、ラテン語で、意味は「死を想え」です。
 著者は、「死は排除したいけど、現実にそこにある。見て見ないふりはしたくない。平和を願うためには戦争を想わねばならない。この世界の豊かさや優しさを実感するためには、貧しさや憎悪から眼を逸らしてはいけない。」との考えから、いろいろ現実をみつめるためのエッセイを書いたとあります。
 なるほど、宗教の問題やメディアの問題、さらには表現の問題について書かれています。
 例えば、「圧倒的な情報量を瞬時に伝達できるテレビは、簡単に観る人の思考を停めることができる。」、「特に民意の増幅と感染を大規模に媒介するマスメディアが発達した現代に生きる僕たちにとって警戒すべきなのは、外なる悪ではなく内なる善なのだ。」、「事実など本来は伝えられない。省略や再構成はメディアの基本原理である。」、「表現には欠落が大事なのだ。受ける側は与えられるだけになる。喚起されなくなる。」など。
 メディアの側にいた(いる)者の実感があります。

2012-11-07 Wed 17:35 | 新刊本

2012-11-07 Wed

岡崎武志 「上京する文學」 (新日本出版社) 2012年10月25日刊


 著者は、故郷をあとにした作家たち、もしくは上京する若者を描いた作品たちを「上京者」という視点から読んでみたもの、最終的には「読書のすすめ」を目ざしたと書いています。これはなかなかおもしろい視点でまとめましたねという感じです。
 啄木については、「家族や故郷を捨て、東京という都市で一人暮らしをする若者の『心の姿』を短歌に託した。」とし、フォークソング歌手になぞらえたりしています。また賢治については、井上ひさしの「つねに自分の可能性は東京に出たらあると思っていたふしがある。」という言葉を紹介しています。太宰については、「東京に向かうことはむしろ下降に働いた。東京から離れるとき、彼の精神状態はいくぶん上昇していく。しかし上昇するとき、太宰の太宰たるべき創作力は弱まっていく。太宰はけっきょく上京するしかなかったのである。」。これなど就中白眉かなと思います。
 続編を期待したいところです。

2012-11-07 Wed 17:03 | 新刊本

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