Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-03-30 Fri

坪内祐三 「ストリート ワイズ」  (講談社文庫)


元本は晶文社でした。そちらも持っているのですが、うかうかするうちに文庫が出てしまい、文庫版のためのあとがきもあることから、こちらも買ってしまいました。まあ良くあることです。これは、坪内氏の初めての評論集で、元本は、平成9年4月に出ています。
 この本で、福田恆存や丸山眞男について論じています。その中で、
 「直線的時間という観念は、無慙にも吾々の意識を不具にしてしまった。違和感の消滅、情報の氾濫の中で、物そのものとダイレクトな関係を結べる機会が、次々となくなっていった。経験の一回性の消失。そのことを批判したくとも、私自身がまたその消費者であった。」と書いています。
 そしてそれに対抗しうるものとして、福田の思想があったといっています。
 こうした感覚は、ほぼ同世代の者として、実感できるものです。

2012-03-30 Fri 18:57 | 新刊本

2012-03-30 Fri

丹羽文雄 「ひと我を非情の作家と呼ぶ」  (光文社文庫)


丹羽文雄の作品は、現在ほとんどが絶版になっています。なんとなく週刊誌に連載されている、風俗小説の書き手的なイメージだったのですが・・・・・・・・
 「よい小説、下手な小説のちがいは、その小説が読者にどのような感動をあたえたかどうかできまるものである。ロマンチックな、きれいごとの小説からは、何の感動もおぼえない。小説とは、いかなる形式であろうと反吐をはくものであると思いさだめたならば、そのことにかえって作者にとっては救いがあるはずである。」
 このように、自分の作品や小説家の業といったものについて語っています。
 気骨のある小説家ですね。かつては、こういう人は文士と呼ばれていましたね。

2012-03-30 Fri 18:34 | 古本

2012-03-30 Fri

秋山正美  「ロング・ロング・セラーズ」  (現代教養文庫)


 この本では、全部で37点の作品を取り上げていますが、その中で読んでいるものは、夢野久作の「ドグラマグラ」と吉川英治の「新書太閤記」だけでした。
 著者は、宣伝や販売戦略のうまさで、一時的にベストセラーになることはあっても、ロングセラーにならず、いつしか消える、ロングセラーは、純文学がどうの大衆文学がどうのというのではなく、一つの社会現象としてとらえるべきだと述べています。
 それはそのとおりだと思うのですが、取り上げた本がロングセラーというには結構怪しいものが相当含まれています。例えば、沢田謙の「ムッソリーニ伝」、「ヒットラー伝」とか、ヒトラーの「わが闘争」とか、あるいは「新訂尋常小学唱歌」とか、「模範新大東京全図」といったものも含まれています。また、豊田正子の「粘土のお面」って?

2012-03-30 Fri 18:22 | 古本

2012-03-24 Sat

高橋源一郎  「恋する原発」   (講談社)


カワカミヒロミの「神様2011」について、まだ生まれていない子供たちが「追悼」されている、共同体の未来に関わることを宣言している、文学というものは、このような「読み」によって成り立っている、そうでなければ、文学の言葉には何の意味もない。
 ミヤザキハヤオの「風の谷のナウシカ」について、ナウシカの言葉もまた、死者の代弁であった、ここでも作者は、「未来の死者」を追悼している、「苦界浄土」の苦界とは、「汚染」された土地そのものが浄土であるような世界である。
 おそらく「震災」はいたるところで起こっているのだ。私たちはそのことにずっと気づいていなかっただけなのである。
 と、あいかわらず鋭い「読み」を教えてくれます。
 しかし、このように「震災後の」文学論を語ってくれているのですが、この部分は、ナンセンスな愛と冒険と魂の物語に挟まれています。これはマクベスの「きれいは汚い、汚いはきれい」ということのメタファーなんでしょうか。

2012-03-24 Sat 14:20 | 新刊本

2012-03-20 Tue

吉本隆明詩集   (書肆ユリイカ)


 3月16日にお亡くなりになりました。私が大学に入学した当時は、すでに学生運動は表舞台からはなくなっていて、いわばしらけた時代であり、やがてバブルに向かおうとしていた時代でした。そんな時代に、吉本氏の「共同幻想論」や「擬制の終焉」を読むことにどんな意味があったのか分かりませんが、なんとなく読んでいました。そこに書かれていたことは、既成の価値や権威は疑うべしといったところでしょうか。程なく、吉本氏は、詩人として出発していたことを知りました。その一つを引用します
  ぼくは死に ぼくの優しさがそれをかんがえている
  とぢられたぼくの眼は永遠を約束されないけれど
  むすうの星がぼくの精神のいないあいだに生まれ
  ぼくのいないあいだに薄れる
  それだけがぼくの夕べと夜との説話だ
  ゆるされた明るい可能だ
                         「一九五二年五月の悲歌」より

2012-03-20 Tue 12:48 | 古本

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