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2011-05-30 Mon
五味康祐 「いい音 いい音楽」
先日住宅金融支援機構の元営業推進室長が汚職で逮捕されたというニュースがありました。動機は、女でもギャンブルでもなく、高額のオーディオ機器購入で約1000万円の借金を抱えていたとのことでした。
この本は、五味康祐が、最晩年に新聞に連載していたエッセイを軸に編まれたもので、音楽やオーディオに対する熱い思いについて書かれています。ごみはこの種のエッセイをたくさん出していて、昔はよく読んでおりました。その仲に、「芥川賞の時計」というエッセイがあります。
彼が芥川賞を受賞した昭和28年当時、彼は校正の仕事をしていて、月収が1万円、都営住宅の家賃が、2700円、そんな生活の中から、3000円のLPレコードを買っていました。芥川賞の賞金は5万円で、副賞が懐中時計だったそうです。五味は、知人から輸入オーディオを3万円で譲ってもらう約束をしていて、それに宛てるため、その懐中時計を質に入れようと考えていたところ、奥さんは、それを察したか、懐中時計を隠し、その代わりに3万円を渡してくれたそうです。話がここで終わっていれば、落語の人情話のようで、いい話で終わるのですが、五味は続けて、機械だけでは音楽は鳴らないと書き、結局レコードを買うために、懐中時計を質に入れるわけです。そこが、この人の業で、作家になる人は違いますね。最後に、「あの頃の方が、音楽を聴いていたという気がする。今は音質を聴きすぎる。どちらが果たして幸福なんだろう。」と述懐しています。件の元営業推進室長も、音質を聴きすぎていたのではないでしょうか。
2011-05-30 Mon 11:22 | 新刊本
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